★ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログ★

ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログです。メンバーの生い立ちから解散に至るまでの様々なエピソードを交えながら、彼らがいかに偉大な存在であるかについてご紹介します。

映画「Get Back」〜ポールが孤立していたシーンもあった(357)

※この記事は、映画「Get Back」の「ネタバレ」を含んでいるので注意してご覧ください。

1 アレンジが上手くいかない

(1)色々と試してみたが

前作「Let It Be」よりずっと明るいイメージになった今回の「Get Back」ですが、それでもポールがビートルズの中で孤立している様子が明らかとなったシーンはありました。新曲がなかなか仕上がらず、ポールが色々と指示を出してやってみるのですが、メンバーとのすり合わせが上手くいきません。

「Don’t Let Me Down」の歌詞を一部手直ししたまでは良かったのですが、アレンジがなかなか決まりませんでした。そこで、ポールがジョージとともにジョンのヴォーカルと異なる歌詞をハモるというアイデアを提案しました。彼らは、とりあえずやってみましたが、ジョージが「これはバカみたいだ。混乱して分からない。」とNGを出しました。まあ、普通はそうなりますよね。

しかし、この曲では上手くいかなかったのですが、「I’ve Got A Feeling」ではメインヴォーカルとコーラスが違う歌詞を歌うという、一見ありそうもないアイデアが対位法というスタイルで見事にハマったんです。何でもやってみないと分かりませんね。

(2)ポールのイラだちがつのる

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自分の主張が通らず天を仰ぐポール

こうして彼らは、様々なアレンジを試してみたのですが、ポールがあれこれと指示しているとジョージが「もうよそう」と話しました。ポールは「何とかしようとみんなで頑張ってるんだろ」と気色ばみましたが聞き入れられず、天を仰いで「もう降参だよ」と弱音を吐きました。

ポールは、自分がやりたいことが伝わらず、明らかにイラついているのが分かります。しかし、彼が何をしたいのかはメンバーにも、観客にも伝わりません。彼がメンバー内で孤立を深めている印象を受けます。

 

2 完璧主義者のポール

(1)ワーカホリック

ビートルズと長年一緒に仕事をしてきたレコーディング・エンジニアのジェフ・エメリックは、ポールのことをワーカホリック(仕事中毒)と呼んでいました。楽曲を制作したり、レコーディングするときは、納得がいくまで何度でもやり直すんですね。

ジョージも決してやる気がなかったわけではないのですが、ポールが次から次へと出す指示に延々と付き合わされ、もういい加減ウンザリしていたのでしょう。この辺りは、ポールの完璧主義者という性格が前面に出ていたような気がします。本人は、良かれと思ってやっているのですが、付き合わされる方はたまったものではありません。

(2)「She’s Leaving Home」の時も

abbeyroad0310.hatenadiary.jp

上記の記事げ紹介した「She’s Leaving Home」のレコーディングの際も、ポールのそういった面が現れました。彼は、レコーディングの際にオーケストラにあれこれと指示を出し、彼らが何度やり直してもNGを出し続けたのです。夜中になってとうとうしびれを切らしたバンドリーダーが、明日の朝に仕事があるからもう帰らせてくれと訴え、流石のポールも引き下がらざるを得なかったというエピソードです。

(3)1曲も完成していない

彼らは、それでも気を取り直してもう一度やり直してみました。ジョンとポールはいいんじゃないかとジョージに話しかけましたが、彼は、こんなのはゴミ箱行きだとNGを出しました。そうやって、彼らは、1時間近く色々と試してみたのですが、何も進みませんでした。

ライヴまで12日しかないことに気づいたジョージは、「ざっと試したのが4曲。何も覚えてないぞ。」と焦りました。それは、全員が同じ気持ちでした。彼らは、何とかしようともがき続けていましたが、なかなか意見がまとまらず、思う通りにレコーディングが進まなかったのです。

 

3 ポールが苦しい心境を訴えた

(1)「ホワイトアルバムの時のようにバラバラだ」

ここで彼らは、「Don’t Let Me Down」を一時棚上げし、再び「Two Of Us」の完成に向けて取り掛かりました。ここで、ポールは、ジョンにこう語りかけました。「僕らは、ホワイトアルバムの時のようにバラバラだ。ここは2人でハモるだけだろ。」ジョン「歌おうとしている」ポール「一体感がない」ポールの目には、ジョンの態度が非協力的に映ったようです。

(2)ポールとジョージのすれ違い

そして、ポールが思い描いているアレンジが、ジョージに思い通りには伝わりません。ポールは、ジョージにこう言いました。「君は僕が何かを言うといつもイラつく。僕は助けたいんだ。でも、僕の言葉にイラついて…。」ジョージ「別にイラついてなんかいないさ。」

ここに大きなすれ違いがあることが分かります。ポールは、彼の言動で何かとジョージがイラついていると感じています。しかし、ジョージの様子を見る限り落ち着いていて、特にイラついているようには見えません。

(3)伝わらない

映像を見る限り、イラついていたのはジョージよりむしろポールの方ですね。しかし、彼は、自分の言いたいことを理解できないジョージの側に問題があると考えていました。

ジョージはジョージで、「オレにどうしろって言うんだ?もう付き合いきれない。」と半ば匙を投げた感じです。お互いに譜面の読み書きができれば、サラサラっとフレーズを譜面に落として「こんな感じで。」とやり取りできたんでしょうが、残念ながらそれはできませんでした。

 

4 孤立を深めるポール

(1)ずっとバンドを仕切ってきた

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そして、ポールは、カメラが回っているところでは無理だと、一旦ベースを置きました。確かに、一番集中しなければいけないクリエイティヴな作業の時に部外者がカメラを回しているのですから、やりにくくてしょうがありません。

結果論ですが、曲が完成してからセッションを撮影するべきでしたね。ただ、メンバーのフラストレーションが溜まってセッションが渋滞したことは、ビートルズにとっては不幸だったものの、そのおかげで名曲が完成する過程を記録した貴重な映像が残されたこともまた事実です。

「僕も仕切りたくない。ここ数年は僕が仕切り…。いつも君らをこき下ろしてる気分だった。でも理解するまで演奏は一旦止めないと」ジョージ「だが何が合うかは演奏しなきゃ分からないだろ」ポール「その結論を言うのはいつも僕だけじゃないか。君ら3人は座って『また言ってる』って感じで。誰も味方してくれない。もうウンザリだよ。君らも分かってるだろ?」

ポールが以前から溜め込んできた不満をメンバーに漏らしました。彼は、まず自分の言うことを理解してから演奏してくれと言い、ジョージは、言うとおりにやっているし、やってみないと分からないと反論しています。こんなやり取りがずっと続くんですよね。ポールが色々とアイデアを思いつくのですが、なかなかそれが通らず歯がゆい思いをしています。

結局、このセッションは、ビートルズの活動中はアルバムにはできませんでした。しかし、その後、彼らが心機一転してレコーディングしたアルバム「Abbey Road」では、ポールもメンバーのプレイに口を出すことを控えて、比較的スムーズにレコーディングができ、後に最高傑作と評されることになりました。惜しむらくは、それが最後になってしまったことです。

(2)「Let It Be」でも登場したシーン

全体的に明るい雰囲気であるこの映画の中で、ここが一番緊張が走ったシーンだったかもしれません。ポール自身もホワイトアルバムの時は、メンバーがバラバラだったと感じていたのです。それは彼だけが原因じゃなく、ブライアン・エプスタインが亡くなったり、メンバーそれぞれが成長したりした結果なんですけどね。ただ、彼が必死に立て直そうとすればするほど、亀裂が深まってしまったのは皮肉な結果でした。

そして、前作の「Let It Be」で登場したあのシーンになりました。ジョージがポールにこう言ったのです。「分かったよ。君の望むとおりに弾く。望まないなら弾かない。君が喜ぶことなら何でもやるさ。でも、君は分かってないよ。」

このシーンは、前作と全く同じなのに受ける印象が全然違います。前回の作品ではジョージがキレて一触即発という感じでしたが、今回の作品では確かに衝突はしているものの、静かに話し合っているだけで険悪なムードは感じませんでした。

つまり、このシーンは、あくまでもメンバー同士の一連のやり取りの中で出てきたほんの一部に過ぎなかったのです。前作ではこのシーンを強調するような演出だったため。観客にはいかにもポールとジョージが口論し、その結果、ジョージがビートルズを一時脱退したかのような印象を与えていました。そう考えると、たとえドキュメンタリーであっても、編集次第でかなり情報操作ができてしまうことが分かります。

(3)どこかに着地点はなかったのか?

ポールは、他の3人が自分のことを理解してくれていないと不満を漏らしましたが、メンバーからすると、それは彼の独りよがりだというところです。ジョージが「君は分かってない」とポールに言ったのはそういう意味でしょうね。

「Don't Let Me Down」の歌詞の変更が良い例ですが、ポールのアイデアが的確だったことも少なからずありました。しかし、彼があまりにも自分のアイデアにこだわり、それに従うようメンバーに繰り返し促したために、他のメンバーがウンザリしてしまったことも否定できないでしょう。もっとも、彼に言わせればジョンもジョージも仕切る気がないから自分がやったというところですね。今さらながら、どこかに着地点はなかったのかと思います。

(続く)

 

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